昨年末に松岡正剛さんが主宰する編集学校を久しぶりに訪ねました。
その時、正剛さんの「千夜千冊」を編集した『文明の奥と底』(角川文庫、2018年)をお土産にいただきました。
この本のなかで正剛さんが取り上げているのがナヤン・チャンダ『グローバリゼーション 人類5万年のドラマ』(NTT出版、2009年)。
チャンダさんは技術の地球規模での普及や市場経済の拡大と同義にとらえられがちな「グローバリゼーション」が、実は人類の歴史とともに始まった「逆戻りできない」プロセスであることを膨大な事例を示して、説得的に描き出しています。
20万年近い昔にアフリカ大陸から初期人類が世界各地に移住し始めたこと、キリスト教やイスラム教の伝道活動、大陸を縦横に移動した隊商たち、騎馬民族による世界制覇、ヨーロッパ人による新大陸の侵略、奴隷貿易、伝染病の世界的な拡がり...。
これらすべての現象が実は今日わたし達が体験している「超結合世界(Hyper-Connected World)」へ向かう「グローバリゼーション」というものなのだというのが、チャンダさんの見立て。
もちろん、この壮大の歴史の舞台には「グローバリゼーション」の恩恵を受けた人々と、苦汁をなめさせられた人々がいます。
先進国における農業補助金が先進国の農産物の国際価格を安価なものとすることを可能とした結果、開発途上国の輸出向け農業を崩壊させたという事例。
一方、補助金制度撤廃が先進国の農家を苦境に追いやる一方で開発途上国に大きな成長の機会を与えるだけでなく、それまで補助金制度を維持してきた先進国に対する自国の農産物輸出について他の途上国よりも有利な条件を与えられてきた一部の途上国の農民たちを他の途上国との競争にさらすことになったという事例も紹介されています。
また、安価で有能な労働力を求めて先進国のグローバル企業が業務のオフショア化を推し進めた結果、先進国内で失職を恐れる労働者やサラリーマンの間に反グローバリゼーション感情が生まれていると指摘したあとで、チャンダさんはこう書いています。
街頭デモなどでは滅多に叫ばれることはないが、反グローバリゼーション感情に拍車をかけているほかの要因には、移民社会の進出による民族的・文化的独自性の喪失に対する不安や、弱小国の文化を消滅、腐敗させていく超大国の覇権主義的文化、金満西側諸国への怒りなどがあった。
そして、もっとも衝撃的なのは、チャンダさんがプリンストン大学の経済学者アラン・ブラインダーの発言を引用してこう予言している個所です。
サービス業でアウトソーシングの影響を受けた人びとは、ほとんどが政治的に影響力を持つ事務系労働者で...これまでオフショアリングの衝撃をもろに受けてきた声なきブルーカラー労働者たちと違い、「失業者の新たな中核となった人びと、特に高学歴層の出身者たちは、現状に甘んじたまま何も言わず黙っていることはないだろう」
チャンダさんは、ヒトラーを例に挙げて移民や異文化への嫌悪を撒き散らす反グローバリゼーションが世界を破滅に追いやると警告すると同時に、巨大な経済格差が世界を暗く孤立した時代に逆戻りさせるかも知れないとも書いています。
これからの10年、20年はグローバリゼーションを巡るさまざまな言説と行動、そして出来事が出現すると思います。
わたしも「グローバル人材をサポートするグローバルコーチになる」というライフ・ビジョンの実現を目指しつつ、さらに学び、考え、自分なりにできることを実践していこうと思いました。
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