Tomorrowmind(明日のための5つのスキル)

この本は、ポジティブ心理学の創始者マーティン・セリグマン博士と、世界最大のメンタルヘルス&コーチング企業BetterUpのチーフイノベーションオフィサー兼BetterUp Labsのリーダーを務めるガブリエラ・ローゼン・ケルマン博士の共著。

BetterUpは2013年に米国シリコンバレーで創業、現在70の国で60カ国語によるメンタルヘルス&コーチングを提供。2021年10月には3億ドル(ステージE)の資金調達に成功、時価総額は47億ドルに達しました。)

BetterUp Labsは、組織心理学、行動神経科学、臨床心理学、社会心理学、AI、体験デザインを含む最新の方法と技術を活用して、人間の繁栄をより深く理解し、加速するための革新的な多分野にまたがる研究ラボ)

2022年11月にOpenAIがChatGPTを公開してから1年半。

未来学者アルビン・トフラーは1981年に出版した『第三の波』において「知的な機械(人工知能:AI)を搭載したコンピューターのことです)は相互に通信するネットワークに接続された場合、私たちの理解や制御能力を超えてしまうのでないか?」という問いを発していました。

40年後の今、私たちはケンブリッジ・アナリティカのスキャンダルや2016年のアメリカ大統領選挙に象徴される、個人の自由とテクノ専制主義との間のジレンマに直面しています。

確かに情報通信技術(ICT)はトフラーが指摘したように人間の能力を拡張し私たちの生来の能力を超えて人間の可能性を拡大しました。同時に、コンピューターとICTは市民を操作するために利用されています。

この本は、トフラーが予言した「新しい文明(第三の波社会)」を生き抜き、成長するために必要な5つのスキルを具体的な事例とともに分かり易く解説した現代の必読書です。

Prospection(未来を予想し、計画する能力)

Resilience(困難から迅速に立ち直る心理的な強さや柔軟性)

Innovation(creativity)(新たな手段や解決法を生み出す能力)

Social Support(流動化する社会において迅速に人間(信頼)関係を築く能力)

Mattering(仕事や人生における達成感と承認欲求を満たす能力)

略してPRISM

しかし、セリグマン&ケルマン両博士はメンタルヘルス領域においてはPRISMの向上を目指す「予防プログラム」がもっとも安価で効果的な対策であるにもかかわらず、多くの企業で依然活用されていないと指摘しています。

例えば、米国の大手企業の97%は、カウンセリングやメンタルヘルスケアへの委託を含む「従業員支援プログラム(Employee Assistance Program)」を導入していますが、両博士によると、現実にこれらのプログラムを利用しているのは全従業員の4%に過ぎないそうです。

ちなみに、日本生産性本部が2023年秋に実施した第11回「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査によると、日本の調査対象167社のうち「心の健康診断(ストレスチェックなど含む)」を実施している企業は94.7%、「社外の相談機関へ委嘱」を行っている企業は49.7%とのこと。ただし、実際の利用率は分かりません。

セリグマン&ケルマン両博士によると、米国ではメンタルヘルスは心の病(mental illness)の婉曲表現であると従業員に受け取られていることが、これらのプログラムの利用を妨げている原因の一つだそうです。

さらに、「精神的健康のための予防プログラム」の対投資効果を実証的に証明することの困難さがプログラム導入(と活用)が進まない理由であるとも述べています。

PRISM向上を目指すメンタルヘルスの予防プログラムが広く世界に普及活用される鍵は、このプログラムが企業業績を向上させるという実証的調査データということになります。